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【エッセイコンテスト受賞作品】ミライ部門:最優秀賞―『生きるための一歩』

G’s10周年企画
こわそう、つくろう、ジブンを、セカイを。エッセイコンテスト
ミライ部門:最優秀賞

審査員コメント

和田彩花さん

和田 彩花さん

異なる場所で経験した出来事を通して考える今こそが、未来に繋がる力だと強く感じさせられました。たくさんの社会問題を抱え、明るい将来を想像しにくい現代において、横山さんのような若い世代の方が日常で見逃してしまいがちな出来事に疑問を呈してくれることが未来の明るさだと思うと同時に、成人した大人こそが現代社会をきちんと見つめ未来に続く今をつくっていかなければいけないのではないかと思いました。年齢や立場に関係なく、あなたのやりたいことに突き進んでください。あなたのやりたいことができる社会であることを大人である私から心がけます。

樋口恭介さん

樋口 恭介さん

未来を考えるヒントは二つある。一つは時間軸で考えること、もう一つは空間軸で考えることだ。時間軸は未来と過去に分解できるが、実のところゼロベースで未来をいきなり考えるのはかなり訓練していないと難しい。おすすめしたいのは過去について考えることだ。そして次に空間軸。空間軸というのは国や、人種や、性別や、年齢や、他の生物種や、あるいは非生物や、海や、山や、空や、宇宙について考えることだ。そして両者の射程は長ければ長いほどいい。過去は遡れば遡るほどいいし、空間は自分から遠ければ遠いほどいい。人は想像力を飛ばすこともできるし、想像力以外のものを飛ばすこともできる。だから外国に身を置くのは未来について考える助けになるし、経験した悲劇に深く分け入っていくことも、眼の前の現実に補助線を引くことになる。
本エッセイは、トンガと日本の両方で育った少女が、両方の国で大きな災害を経験するという、ただそれだけの話なのだが、トンガの噴火は日本の地震を呼び起こし、日本の地震はトンガの噴火を呼び起こし、トンガの生活は日本の生活を前景化し、日本で感じたことはトンガの生活を前景化する。つまるところ、思考とは離散的であると同時に円環的なのだ。そして、そうした散り散りの思い出の発光の過程に、あるいはその間隙に、未来の思考は横たわっているのだと僕は思う。

『生きるための一歩』横山 シシファ美麗

私は16歳の高校1年生です。日本で生まれましたが、9年間をトンガという小さな島で過ごしました。ト ンガでの生活は、手付かずの大自然に囲まれ、夜空には星が溢れ、サイクロンの後には、大きな虹が顔を出し、自宅前の海ではザトウ鯨の大きな体が海面をジャンプする姿を見ることができました。
私たちは、その大自然と共存する方法を学び、感謝しながら生きていました。しかし、生活資源は限られ、貧困、多くの子どもたちは学校に通えず、適切な医療を受けることすら出来ませんでした。

だからこそ、日本に昨年帰国し、この国がどれだけ恵まれているのかを実感させられました。日本の子どもたちは住居、食事、教育や医療、安全など全てが手に入るのです。しかし、調べていくうちに衝撃的な事実にぶち当たります。世界で行われた「人生の幸福度」調査では、日本は30カ国中27位、そして、週に10人もの子ども(小学生から高校生まで)が自ら命を絶っているという事実です。トンガでは生き延びることが難しくても、子どもたちは笑顔と共に生きる理由を見つけていました。日本では必要なものが揃っているにも関わらず、多くの子どもたちは自ら生きることを諦めてしまうのです。私は問い続けずにはいられませんでした。大人たちが「正しい」と考える人生のシステムに子どもたちを導いているのに、なぜ多くの人々が不幸なのでしょうか?なぜ子どもたちは苦しむのでしょうか?なぜ個性的な考えや夢は、総合学習や同調圧力によって押し潰されてしまうのでしょうか?

なぜ子どもたちはこれほど苦しみ、自ら命を絶つ道を選ぶのでしょうか・・。

私は2011年の東日本大震災を釜石で経験し、2022年にはトンガの火山噴火を目の当たりにしました。これらの経験は、命の儚さを私に教えてくれました。

しかし、命の儚さは自然災害などによるものだけではありません。人間の心が生み出してしまうこともあるのです。

そこで、私は今まで大人が作ってきた枠を1度壊して見ようと考え、子どもだけで構成されるNPO「CTF(Create The Future)」を立ち上げました。子どもたちが自分たちの手で世界を変え、創るチャンスを得られる場所です。多くの人は「全員未成年者なんて不可能だ」と言いました。しかし、未来を背負っていく子供たちが、今の日本の社会で最も苦しんでいるのなら、そこに疑問を持ち、行動する権利も私たちにあるはずです。

確かに、この一歩を踏み出すのはとても怖かったです。失敗するかもしれない、何も変わらないかもしれないと不安になります。しかし、このままの世界がさらに多くの子どもたちを傷つけ、ひきこもり、うつ病、自殺などの数が年々増えていくことを考えたら、それ以上に怖いものはありませんでした。

だから私は、恐怖を敵ではなく道しるべと見なすことにしました。恐怖は、時に尊いものを映し出します。

私は、子どもたちが大人たちに与えられた道を歩むのではなく、自ら考え、自分たちの望む世界を作りること、自由や幸せを感じながら生きることを目標にします。

未来は子どもたちが大人になってから始まるのではありません。私たちが未来を変えられると信じた瞬間からすでに始まっているのです。

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