外国ルーツの子どもと家族へ——近岡さんが立ち上げた三つの事業
構想から、およそ2ヶ月。株式会社Atelier C代表の近岡さんが立ち上げたオンライン日本語スクール「Beyond L」には、いま24〜25名の日本語教師が集まり、それぞれの経験や専門性を生かした講座を掲載している。その一方で、外国ルーツの子ども向け日本語学習サービス「Ralango!」の開発を続け、教材の学びだけでは届かない子供に向けて、オンラインで指導者とつながる仕組み「Ralango! Live」も開発・自治体への導入を進めている。対象、提供方法は異なるが、いずれも外国ルーツの子供とその家族が、日本で自分らしく学び、暮らしていくための取り組みだ。構想やシステム開発、講師の採用、サービスの運営まで、現在は、近岡さん一人で担っている。
その原点には、日本語指導コーディネーターとして年間800人の子どもたちと向き合ってきた日々と、「制度や仕組みの中で支援を届けられなかった」という悔しさがある。現場で感じた課題をどう事業へと変えてきたのか。近岡さんに、ここまでの経緯とこれからを聞いた。
■現場から寄せられた相談が、すべての始まりだった
Beyond L の出発点は、自治体関係者と話す中で交わされた何気ない一つの相談だったという。
実は、自治体関係の方と Ralango! の話をしている中で、「教材で学ぶだけでなく、オンラインで会話の練習ができる仕組みができないか?」という相談をいただいたんです。学校での指導時間だけでは足りないので、放課後などにも子どもたちが練習できるようにしたい、と。それまで私は、Ralango! を子どもが自分で学習できる教材として考えていたんですが、教材を渡すだけでは支えきれない子どももいます。では、離れた場所にいる先生と子どもをどうすれば安全に、簡単につなげられるのか。それを考え、まずは小さくテストできる形を作ってみようと思ったのが最初でした。
そうです。オンラインで、Zoomのように先生と子どもをつなげられないかと考えました。ただ、小学生の子どもが一人でZoomに接続するのは、意外と大変なんですよ。リンクを開いて、待機室に入り、音声やカメラのボタンを操作して、うまく動かなければ自分で対処しなければならない。大人には簡単に見える手順でも、日本語がまだ十分に分からない子どもにとっては大きな負担になります。なんとかボタン一つで先生とつながれるようにできないか、というところから試行錯誤が始まりました。
試行錯誤しながら、子どもがオンラインで先生とつながる仕組みが少しずつ形になってきました。そのときに、「あ、これは子どもだけでなく、その周りにいるお母さんたちを支えることにも使えるかもしれない」と思ったんです。私は Ralango! の開発を通して、子どもたちとは直接会って話をしています。学校などを通じて子どもに支援を届ける道は、まだ十分ではないにしても、少しずつ見えてきていました。でも、その周りにいるお母さんたちは、支援につながるきっかけ自体がとても少ないんです。私がコーディネートで担当する講師の先生からも、「保護者のお母さんたち、日本語がわからなくて苦労しているよね」「学校から来た書類が読めなくて困っているみたい」といった話をずっと聞いていました。
お母さんたちが日本語学校に行くのって、なかなかハードルが高いんです。でも、1日25分だったらなんとか時間を作れるんじゃないかと考えました。45分、50分だと長いんですけど、25分なら。周りに聞いてみたら「それぐらいだったらやりたいかも」「しかも子どもを抱っこしててもいいし」という話になって。じゃあオンラインの講座を考えてみようかな、と思ったのが2ヶ月ぐらい前です。
生成AIにもかなり助けてもらいました。開発に使っていたAIの利用条件が変わるかもしれないという話もあったので、「今のうちに形にしよう」と、一気に作った部分もあります。もともと語学スクールを立ち上げ、運営していくために必要なステップはだいたい分かっていたので、まず全体の流れを整理して、それに沿って進めました。事業の計画を立て、システムを作り、講師を募集して採用し、先生方にどうやって講座を作ってもらうかを考える。受講者の申し込みからレッスンまでの流れも含め、必要な仕組みを一つずつ、全部一人で作っていきました。
■20年日本に住んでいても、日本語ができないという現実
誰に届けるのか。試行錯誤の末にたどり着いたのは、日本で暮らす在留外国人の「生活」だった。
試行錯誤する中で、やはり日本で暮らしている外国人の方たちに使ってもらいたい、という考えにたどり着きました。日本に20年ほど住んでいても、家庭や同じ言語を話すコミュニティの中で生活が成り立っていたため、日本語を体系的に学ぶ機会がなかった方もいます。長く住んでいれば自然に日本語ができるようになる、というわけではないんですよね。
実際には、生活のさまざまな場面で困っています。制度や手続きが複雑になり、相談したくても、どこへ行って何を聞けばよいのか分からない。窓口へ行っても、必要な説明を十分に理解できないまま手続きが進まず、帰らざるを得ないこともあります。これまで通訳や手続きを助けてくれた知人が引っ越したり、身近に相談できる人がいなくなったりすることもあります。
例えば、子どもを幼稚園や保育園に入れたいと思っても、申請に必要な書類や手続きの順番が分からない。学校から届いたお知らせを読めず、期限や持ち物を把握できない。病院で自分や子どもの症状をうまく説明できない。生活に直結する困りごとが、本当にたくさんあるんです。日本語を少しでも使えるようになれば、自分で確認したり、助けを求めたりできる場面が増え、もっと暮らしやすくなるのではないか。そうした生活のための日本語に特化して始めたのが、Beyond L です。
サービスとしては別です。Ralango! は外国ルーツの子どもたちの学びを支えるもので、Beyond L は日本で生活する外国人の方が必要な日本語を学ぶためのものです。ただ、対象となるのは同じ家族かもしれません。Ralango! を使う子どものお母さんが Beyond L で学ぶ、ということも考えられます。子どもだけ、保護者だけを見るのではなく、家族全体の生活を考えると、二つはつながっていると思います。
■先生の「色」が、そのまま講座になる
Beyond L のサイトには、驚くほど多彩な講座が並ぶ。それは、近岡さんが講師一人ひとりから引き出したものだ。
一つは、専門的な知識と指導経験を持つ日本語教師であること。もう一つは、日本語以外の言語でも学習者をサポートできることです。この二つを大切にしています。すべての学習者の母語に対応できるわけではありませんが、講師が英語、中国語、スペイン語などを使えることで、日本語だけでは説明しにくい部分を補えます。学習者が理解できる言語を必要に応じて使えることを、Beyond Lの特徴として打ち出しています。
私自身、講師の採用には慣れていて、もともとの仕事でもこの6年ほどで約800人の講師採用に関わってきました。Beyond Lの講師には、書類だけで決めるのではなく、課題を出し、面接で話をしながら、その方の日本語教育に対する考え方や、実際に何ができるのかを判断して採用しています。選考はかなり厳しめだと思います。
その一方で、採用した先生方には、その方にしか出せない「色」を出してもらいたいと思っています。何を大切にして教えてきたのか、どんな学習者に届けたいのか、どんな講座なら自分の経験を生かせるのか。面接では、そうしたことを一緒に掘り下げながら、「では、その思いを10回の講座にするとしたら、どんな内容になりますか」と問いかけて、それぞれの講座を作ってもらいました。
結構面白い講座が出てきて、それが Beyond L の色になってきたと感じています。例えば、子育て経験のある日本語教師が、保育園や学校とのやり取りに必要な「子育てのための日本語」を作ったり、日本語特有のオノマトペを集中的に学ぶ「オノマトペマスター」という講座を考えたりしています。
介護分野で学びたい外国人の進学を支援したいという先生もいます。介護士を目指す人には、進学先や条件によって利用できる修学支援制度もありますが、制度を知るためにも、入学や学習を進めるためにも日本語が必要です。「今から準備すれば、介護の専門学校で学ぶという選択肢も持てることを伝えたい」と、その方たちに向けた講座を作ろうとしている先生もいます。
講師が今24〜25人で、1人3つずつぐらい上げてくれているので。JLPT向けをやりたい人もいれば、ビジネスの方が慣れているからビジネス向け、という人もいて、本当にいろんな人がいますね。
日本語学校で働いている先生が多いのですが、学校では定められたカリキュラムや教材があり、授業も日本語で進める直接法が中心です。そのため、自分が使える言語や、それまでの仕事、子育てなどの経験を、授業の中で十分に生かせないことがあります。例えば、スペイン語ができる先生でも、勤務先の日本語学校にスペイン語圏の学習者が少なければ、その力を使う機会はほとんどありません。授業で使う語彙や文型にも一定のルールがあるので、自分が本当に教えたいテーマを自由に扱えるわけではないんです。だからこそ、「自分の経験や得意なことを生かし、本当に届けたい人に向けた講座を作りたい」という思いを持つ先生が多いのだと思います。
Beyond Lでは、講師と学習者の双方にとって必要であれば、日本語以外の言語も使えます。対応できる言語がない場合は、やさしい日本語を使いながら日本語で教えますが、学習者が理解できる言語で説明できるなら、その言語を使った方が早く、正確に理解できることも多いんです。日本語学校では、学校の教育方針やクラス運営上、日本語だけで教えることが求められる場合があります。別の言語を使える力があっても授業では生かせず、もどかしさを感じている先生もいます。
日本語教育の質を一定に保つため、2024年4月から認定日本語教育機関と「登録日本語教員」の制度が始まりました。認定を受けた日本語教育機関で、その認定対象となる課程を担当するには、原則として登録日本語教員であることが求められます。学校では、学習目標やカリキュラム、評価方法などを整え、一貫した教育を行う必要があります。
ただ、登録日本語教員の制度そのものが、授業で学習者の母語を使うことを禁止しているわけではありません。日本語だけで教えるか、別の言語も使うかは、それぞれの学校の教育方針や授業設計による部分が大きいです。Beyond Lは認定の日本語教育機関とは役割が異なるので、学習者の目的と講師の専門性に合わせて、使う言語、教材、授業の進め方を柔軟に決めています。
最初は多分、私と面接するまでは「Beyond Lが作ったカリキュラムを、Beyond Lの作ったテキストでやるんだろうな」と思っていたと思うんです。私も立ち上げるときは Ralango! のテキストを使えたらいいかなと思っていました。でも実際に先生方と会って話をしてみると、面白いアイディアを持っている人たちがいっぱいいたんです。
それに、日本語学校で使われる総合教材を最初から順番に学ぶ方法が、すべての人の目的に合うとは限りません。例えば、子育て中のお母さんが今すぐ必要としているのは、文法を体系的にすべて学ぶことより、保育園へ提出する書類の書き方や、先生へ質問する言い方かもしれません。もちろん、時間をかけて基礎から学ぶことが必要な人もいます。でも、「来週までにこの書類を出さなければならない」という人に、そこへたどり着くまで何年も待ってもらうことはできません。だから、学習者の目的から逆算した講座にも対応できるよう、先生方にはかなり自由に考えてもらっています。
■「私の役割は、つなぐこと」
講座の内容や教材、価格は、講師が自ら考える。近岡さんは必要な確認を行いながら、その専門性と発想を尊重している。
基本は25分×10回の講座です。内容は私も確認しますが、先生と話しながら作っているので、完成後に大きく直すことはほとんどありません。価格も、内容や準備にかかる時間を踏まえて、先生方自身に設定してもらっています。先生が、自分の思いを込めた講座を責任を持って運営できることは、Beyond Lの大きな特徴です。教材も自分で選び、必要であれば自分で作る。決められた授業を担当するのではなく、自分の経験から生まれた講座だからこそ、先生方がそこに込める思いも強くなると感じています。
あと、その人たちが一番、相手の方たちのことを知っているんですよね。「この人たちにこれを届けたい」という思いがかなりしっかりしているので、私の役割はそれをつなぐこと。そういう人たちを集めてきて、つないでいく。どっちかと言ったら、やっぱりコーディネーターなのかなと思います。
そうそう。ずっとコーディネートなのかな、という感じはします。
■一人で回す、事業の裏側
華やかに見える立ち上げの裏側には、地味で膨大な実務がある。しかも、それを担うのは一人だ。
採用して講座に乗せていくまでが、やっぱり結構大変ですね。求人媒体で1回募集すると100人ぐらいから応募が来るんですよ。
最初の1ヶ月ほどで100人くらいから応募があり、その中で採用したのが15人ほどなので、かなり絞っています。ただ、採用して終わりではありません。講師として登録してもらい、講座をサイトへ掲載し、受講者を集めて、申し込みがあれば先生とマッチングする。25分×10回のレッスンが今どこまで進んでいるのかを管理し、講師への報酬にも正確に反映しなければなりません。受講者からの問い合わせや日程変更にも対応します。それらを一人で管理する仕組みを作るのが、最初はかなり大変でした。契約や運営上のルールについては、さまざまな資料を確認し、弁護士さんにも助けてもらいながら、ここまで整えてきました。
toCなので、出したら直し、出したら直しができる。そういう意味では、まず小さく出して反応を見ながら作ることができます。逆に、学校や教育機関で使ってもらうことを想定している Ralango! は、子どもが使うものですし、現場で継続的に運用してもらう必要もあるので、ある程度形になってからでなければ提案できないんですよ。
だからこそ、自分自身が成長していかなきゃいけないなと思っていて。そのためには、toCで人の話を聞きながら、講師の皆さんと一緒に作り上げていくことも私には必要だなと思って、楽しみながらやっています。
■Ralango! / Ralango! Live / Beyond L——三つの事業のつながり
近岡さんが進めている取り組みは、対象者や提供方法は異なっていても、すべてが一本の線でつながっている。中心にあるのは、外国ルーツの子どもたちのためのRalango!だ。そこから、教材だけでは支えきれない子どもと指導者をオンラインでつなぐ仕組みRalango! Live、さらに子どもの周りにいる保護者や日本で暮らす外国人のためのBeyond Lへと、支援の範囲が広がっている。
Ralango! は、子どもが自分のペースで学べる教材を中心にしたサービスです。そこに、教材だけでは支えきれない部分を補うため、Ralango! Liveで先生とつながって学べる仕組みも加えたいと考え、開発と検証を進めています。Beyond L は、子どもに限らず、日本で生活する外国人の方が必要な日本語を学ぶためのtoCのサービスです。最初から三つを同時に作ろうと計画していたわけではないんですよ。目の前にいる人が何に困っているのかを考えて、一つずつ形にしていったら、いつの間にかここまで広がっていたという感じです。ちょっと欲張りすぎたかなとも思いますが、作っているうちに楽しくなってしまって(笑)。
はい。あれはもともと Ralango! の新機能として作ったものですが、オンライン指導でも使えるようにしています。一般的なオンライン会議ツールだと、先生が画面に書いたものを見せることはできても、生徒が同じ場所に書いて先生に見せるのは意外と難しいんです。一方通行になりやすくて、先生が説明し、生徒がそれを聞くだけになってしまう。でも、今開発している仕組みでは、先生と生徒の両方が同じ画面に書き込めます。先生が「ここから書いてみて」と示し、子どもがその場で書き、書き順や形を一緒に確認できる。実際に子どもに手を動かしてもらえることが、とても大きいと思っています。ひらがなの書き順についても、一文字ずつSVGで書き順の開始位置や経路を作り、アニメーションでどこからどの方向へ書くのかが分かるようにしました。全部自分で作ったので大変でしたが、作業そのものはすごく楽しかったです。今、ひらがな・カタカナを作ったので、次は小1からの漢字を作っていく予定です。
「お手本」ボタンを押すと、書き順アニメーションが出る仕様。
本当に、ずっと同じ文字を見ていると、途中からひらがなに見えなくなってくるんです。「この点はここで合っているよね」と何度も確認しながら作りました(笑)。でも、実際に子どもが画面上で書き、それを先生が見ながら指導できる場面を想像すると、必要な機能だと思えたので続けられました。
自分の土台は、やはり Ralango! にあります。最初に考えたのは、外国ルーツの子どもが、母語も使いながら、自分に必要な日本語を学べる教材を作ることでした。ただ、子どもたちに会って話を聞き、学校の現場を見ていくと、教材を渡すだけですべてが解決するわけではないと分かります。自分一人で進められる子もいれば、先生と話しながらでなければ進みにくい子もいる。文字を書くところを見てもらう必要がある子もいれば、会話の練習をしたい子もいます。だから、Ralango!を実現していくために、その周りからこぼれてしまう人たちに、どんな方法なら支援を届けられるのかを考えるようになりました。将来的には、Ralango!を学校の中でも使ってもらい、子どもの学習と先生による指導が無理なくつながる形にできたらと思っています。
Ralango! Liveについても、特定の地域だけを対象にするのではなく、将来的には日本語指導が十分に行き届いていない場所へ届けたいと考えています。外国ルーツの子どもが増えていても、日本語を教えられる人が近くにいない地域はたくさんあります。また、受け入れる側が英語や中国語には対応できても、それ以外の言語を母語とする子どもが来たとき、すぐに対応できるとは限りません。例えば、タガログ語やネパール語などを母語とする子どもが突然学校へ来ることになったとき、その子の背景や母語を理解できる先生とオンラインでつなぐことができれば、住んでいる場所によって支援の可能性が大きく変わる状況を少しずつ減らせると思っています。そのための仕組みとして、今は開発と検証を重ねている段階です。
そうなんです。オンラインであれば、例えばシンハラ語を母語とする子どもが新たに来たとしても、その言語や文化的な背景を理解できる先生と、地域を越えてつなぐことができます。私自身、これまで日本語指導のコーディネートや講師採用をしてきた中で、多様な言語に対応できる先生方とつながってきました。そのネットワークがあることは大きいと思っています。ただシステムを作ればよいのではなく、子どもの状況を見て、どの先生と、どのような内容でつなぐのかを考える人も必要です。これまで培ってきたコーディネートの経験と、オンラインの仕組みを組み合わせることで、今まで支援につながりにくかった子どもにも届けられる可能性があると思っています。今、仕事を通してつながっている方々も応援してくださっていて、「一緒に考えていこう」と言ってくれているので、本当にありがたいですね。
増えています。私がコーディネートに関わっている複数の地域でも、毎年多くの子どもたちが新たに日本語指導を必要としています。全体では、年間約800人の子どもの指導や講師の調整に関わっていますが、その人数は増え続けています。ただ、同じ地域に住んでいるからといって、子どもたちの状況が同じなわけではありません。来日した時期も、母語も、母国でどこまで勉強してきたかも違います。家族が日本語を話せるかどうか、学校の中に相談できる人がいるかどうかも違います。人数が増えるほど、一律の教材や決まった指導方法だけでは対応しきれなくなります。だからこそ、その子に必要な先生、教材、学び方を見極めてつなぐ仕組みが、これまで以上に必要になっていると感じています。
本当にそうですね。日本語を教える力を持つ先生だけでなく、子どもの状況を見て、必要な人や学び方につなげられる人も必要です。私一人でできることには限りがありますが、少しずつ仲間も増えているので、そういう人たちにも一緒に関わってもらえたらうれしいです。Ralango!で子どもの学びを支え、教材だけでは足りない部分にはRalango! Liveで先生とつながる機会を作る。そして、子どもの周りにいる保護者の方や、日本で暮らしながら日本語を学ぶ機会を持てなかった人には、Beyond Lで必要な学びを届ける。それぞれを別のものとして広げるというよりも、一つの家族の中にある困りごとを見ながら、必要な支援をつないでいけたらと思っています。
■「分かろうとしてくれる人がいる」——心と心をつなぐ仕事
近岡さんが大切にしているのは、子どもの表面に現れる言葉や態度だけで判断せず、その背景に目を向けることだ。コーディネーターとして関わってきた中で、今も強く印象に残っている子どもがいるという。
アフガニスタンの紛争地域から来た男の子が、とても印象に残っています。その子は小学校に入る3年ほど前から日本で暮らしていたのですが、日本語をきちんと学ぶ機会があまりなかったんです。友達とのやり取りの中で強い言葉ばかりを覚えてしまい、学校の先生にも悪態をつくような状況になっていました。
日本語指導が始まっても、最初は「やりたくない!」「帰れ!」「大嫌い!」と、ずっと言っていました。でも、その言葉だけを見て「指導を受ける気がない子」と判断するのではなく、なぜそのような態度を取るのかを考える必要があると思ったんです。
そこで、担当してくれたダリ語を話せる講師と、指導が終わるたびに話をしました。その日の様子を聞きながら、「今日は何に反応していたのか」「どう接したら少し安心できるのか」と、毎回一緒に対応を考えていきました。担任の先生とも学校での様子を共有しながら、すぐに結果を求めず、少しずつ関わり続けました。
そうしているうちに、その子も少しずつ心を開いてくれるようになりました。担任の先生からも、教室の中での友達との関わり方が変わってきたと聞くようになり、その子なりに学校で安心して過ごせるようになってきたことが見えてきたんです。
そうですね。表面に出ている言葉だけを見ると、「乱暴な子」「指導が難しい子」と思われてしまうかもしれません。でも、その子の母語やこれまでの経験を理解できる講師が関わることで、初めて見えてくるものがあります。
私自身がすべてを直接教えるのではなく、子どもの様子を見ながら、その子に合う講師をつなぎ、講師や学校の先生と一緒に支援の方法を考えていく。それがコーディネーターとしての私の役割なのだと思います。
子どもが「この人は自分のことを分かろうとしてくれている」と感じ、少しずつ心を開いていく。これは、AIやシステムだけではつくることのできない、人と人との大切なつながりだと思っています。
■辞めたかった仕事、G’sで手にした「武器」
一方で、その仕事から離れようとしていた時期もあった。G’sの門を叩いたのは、ちょうどその頃だ。
それが一番難しい質問で。まだ始めたばっかりなので、「これがやりがいです」と語れる段階ではないと思うんですけど。
私がG’sに入り、Ralango!に取り組み始めたのも、実は当時の仕事が辛く、辞めたいと思っていたことも背景にはあるんです。支えたい子どもがいても、制度や支援時間の枠によって、まだ必要なのに指導を続けられないことがありました。日本語で十分に自分の状態を説明できない子どもの様子が、発達面の課題として受け取られ、日本語支援とは別の枠組みへ移ることもありました。もちろん、専門的な支援が必要な子どももいます。ただ、言葉の問題と発達上の課題を切り分けることが難しいまま、日本語の支援が途切れてしまうように見えるケースもあり、私には強い迷いが残りました。「まだできることがあるのではないか」「この子に必要な支援は、本当にこれで終わりなのか」と思いながらも、自分の立場では変えられない。子どもたちに必要なものを届けられていないと感じて、半分「この仕事から離れようかな」と思っていたときに、G’sへ入りました。
学んでいくうちに、「もしかしたら、これまで届けられなかった人たちにも、自分から支援を届ける方法を作れるかもしれない」と思うようになりました。まだ全然、道半ばです。でも、テクノロジーという新しい手段を持ったことで、現場で「この人たちに、こんなものがあったらいいのに」と感じていたものを、少しずつ自分で形にできるようになってきました。
以前は、制度の中でできないことがあると、そこで立ち止まるしかありませんでした。今は、小さな形でも自分で作り、使ってもらい、反応を聞いて直すことができます。これまで支援を届けたかった人たちの未来を考え、その未来に対して自分から働きかけられるようになったこと。それが、今の私にとって一番大きなやりがいであり、走り続けるモチベーションになっています。
■これから——ぶれずに、でも小さく出して直していく
まずは、最終的に Ralango! を学校や地域の教育現場で使ってもらえるようにしたいです。これが大元であり、私の事業の基盤なので、そこはぶれずに進めていきたいと思っています。そのためにさまざまな教育関係者と話をし、現場で本当に必要とされているものを確認しながら、少しずつ形にしていきたいです。教材だけでは支えきれない部分をオンライン指導の仕組みが補い、子どもの周りにいる保護者の方への支援を Beyond L が担う。そうした取り組みを通して出会った先生方とも交流を持ちながら、Ralango!そのものをよりよいサービスに育てていけたらと思っています。
ただ、完璧を目指すのが私の悪いところで。サポートをしてくれているG’sの卒業生の方からも「最初から大きくいかないようにね。Beyond L も出せる段階になったらまず出そう、そこからまた直していけばいいじゃん。それぐらいの軽い気持ちで出していった方が自分もやりやすいし、多分求めている人たちにも近づくことができるんじゃないの」と言われたんです。まさにその通りだなと思うので、本当にScrap&Build、Try&Errorでやっていけたらいいなと思っています。
GGAの時に出したものを今見るとゾッとするんですよ。教材に使用している動画も、実はあの頃はGIFで作っていたんです。その後、G’sの同期の方に、動画を作るためのレクチャーをやってもらって、Ralango! の教材に登場する子どもたちが動くようになったんです。イラストの子どもがアニメになってちゃんと動くようになりました。本当にいろんな人たちに助けられています。
G’sに入ったおかげでいろんなつながりができて、こうやって進んでいるのはありがたくて。まだ卒業して1年も経っていないんですよね、入ったのが4月なので。この1年でかなり生き方が変わったなと自分自身感じているので、そこに新たなチャレンジを続けられるように頑張っていきたいなと思っています。
ありがとうございます。G’sの皆さんにいつも温かく迎えていただいて、声もかけていただいて、本当に感謝しています。
現場での深い考察と、そこで出会った人たちへの愛、そして何よりも「この人たちを救いたい」という強い信念で行動を続けている近岡さん。周囲への感謝の言葉を常に口にするシーンが多くみられ、そんな彼女が作りだすサービスはたくさんの人に愛され、幸せにしていくのだろうなと感じた。
先生と学習者を、子どもと家族を、制度と現場をつなぐ。そして、かつて届けられなかった支援を、これからは自分で形にして届けていく。コーディネーターとして積み重ねてきた経験と、G’sで身につけたテクノロジーを掛け合わせながら進む、近岡さんの挑戦をこれからも応援し続けたい。